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島根・徳島・福岡のエンジニアが語る、今日本の地方で起こっているIT移住の波

まち・ひと・しごと創生本部が発足し、この国で地方創生が本格的にスタートしてから2年あまり。産、官、学と様々なクラスターが新たな施策に乗り出してはいるものの、なかなか顕著な成果が生まれない自治体がある一方で、確実に結果を出しつつある地域があります。

中でも特に注目を浴びているのが島根県、徳島県、そして福岡市。この3エリアにはエンジニアにターゲットを絞った移住施策で地方創生に成功しているという共通点があります。

去る昨年12月、実際にこの3エリアに移住し活躍している人が、赤裸々にそのリアルを語るイベント「“Satellite JAPAN”地方発 IT INNOVATION」が東京・表参道で開かれました。

登壇者は島根県代表の羽角均(はすみ・ひとし)さん、徳島県代表の辰濱健一(たつはま・けんいち)さん、福岡市代表の大屋誠(おおや・まこと)さんのお三方。IT産業が活性化する中、どうして彼らは人生のネクストステージとして地方という舞台を選んだのでしょうか? 登壇者による鼎談の様子をお伝えします。

--まずはみなさん、それぞれ簡単な自己紹介をお願いします。

羽角 島根県代表の羽角均です。東京に本社のあるモンスター・ラボという会社の島根開発拠点でエンジニアをしています。松江市へは平成26(2014)年に夫婦でIターンしました。

辰濱 徳島県代表の辰濱健一と言います。名刺アプリ「Eight」を手がけているSansan株式会社 でAndroid アプリエンジニアとして働いています。出身も徳島なのですが、今は徳島の神山町にあるサテライトオフィスに勤務しています。

大屋 福岡市代表の大屋誠です。株式会社IDCフロンティアの技術開発部R&D室長という肩書きですが、おもに新サービスの技術開発や企画に従事、現在はIoTや行動認識のプラットフォームの開発に力をいれています。平成27(2015)年より出身地の福岡に移住しました。今は東京時代と同様、R&D室長として、福岡と東京のメンバーのマネジメントを行いつつ、リモート環境でのコミュニケーションやマネジメントについての改善をすすめる仕事をしています。

--羽角さんがIターン、辰濱さんと大屋さんがUターン組ということですね。U・Iターンした時に、現地で困ったことなどはありませんでしたか?

羽角 僕の場合は全くと言っていいほどありませんでしたね。妻は何と言うかなと少し心配だったのですが、会社が島根に開発拠点を作ることになったタイミングで「島根に移住しようと思う」という話をすると、妻はその週末の間に島根の情報収集をし始めて「えっ、島根すごいイイところじゃん!」という反応で。さらに僕より先に勤務先に「在宅勤務をさせてくれ」とかけあってくれました。言い出しっぺの僕の方が動くのが遅かったくらい(笑)。大屋さんのご家族はお子さんもいらっしゃいますが、移住の時に家族内で揉めたりしませんでしたか?

大屋 それはありませんでした。僕がもともと福岡出身でUターンだったので、妻も抵抗なかったみたいです。それに、昔から妻とは、やっぱり子どもには学校から帰ってきてランドセルを放り投げて、お腹が空くまで遊ばせたいという共通の子育て方針がありまして。それなら、やっぱり東京より断然福岡の方が、環境がいい。移住の選択は子どものためにもよかったと思います。

羽角 辰濱さんはまだお若いですよね。独身ですか?

辰濱 はい、独身です。僕はもともと徳島出身だったのですが、学生時は通学に電車で1〜2時間もかかるような生活をしていました。学生の頃は通学で疲れても自分の成績にしか影響ないですけれど、通勤となると会社に迷惑がかかる。それならやっぱり通勤時間はない場所がいいなとは思っていて、新卒時は地方就職を希望していました。その後転職を経て、縁あって神山ラボ常勤として今の会社に就職。入社時は数ヶ月、東京本社に勤務していたんですが、もう初めての東京の満員電車にてんてこ舞い。こんなストレスを溜め込んでは絶対仕事を続けられないと痛感しました。早く徳島に帰りたかったです。

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大屋 辰濱さんが仕事をしている神山といえば、IT企業誘致に力を入れていることでも有名ですよね。

辰濱 そうですね。僕の会社は平成22(2010)年10月に神山町にサテライトオフィスを設置しました。徳島の市内からは車で1時間くらいかかる田舎なのですが、先にUターンをしていた知人や先輩がフェイスブックで現地の様子をよく投稿していたので、僕も不安とかはありませんでしたね。帰ってきた当時はまだ20代でしたし、怖いものも特になかったと思います。

羽角 20代でその決断ができたのは大きいと思いますよ。若いうちにジャンプできる人は、ちゃんと自分の生活を現地で作れる人が多いと思います。僕の会社にも20代の若い社員がいますが、客観的に見ても彼らもうまくやっていると感じます。

辰濱 失敗してもリスクが少ないのは、やっぱり若い時に移住する利点ですよね。収入が減っても、会社が潰れても、家賃は安いし食べ物はもらえる。東京よりもずっと生活できなくなるリスクは低いと感じています。

--みなさん都市の大きさの規模は違えど、共通して「不安はなかった」「特に困ったことはなかった」とおっしゃっているのが印象的です。

羽角 東京一極集中って言いますけど、やっぱり東京だけ異常なんだと思います。だって、こうして地方の人間が集まって話をすると何かしらの共通認識があるじゃないですか。だからこそ地方での生活が、今の日本の暮らしのスタンダードなんだってもう一回認識する必要はあると思いますよ。

■エンジニアたちの目が地方に向くのはなぜか

--みなさんはエンジニアという共通点がありますが、ITの仕事をする上で、地方で働く意義はどこにあると思いますか。

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大屋 言葉で説明するのは難しいんですが、僕は「自分の感覚で、自分で『いいな』と思える仕事ができている」という感覚があります。

辰濱 と言いますと?

大屋 これまで、インターネット業界で働いていると「結局、この仕事って何のために役に立っているんだっけ?」と思うことがよくありました。でも、世の中のITって、今かなり技術が進んでこれまでITが届かなかった領域に目を向けて、そこで「ITしよう」という流れがやってきていると思うんです。じゃあ、そのITを欲しているのは誰か、ITで解決できるような問題はどこにあるかと考えると、それって案外、地方のケースも多いんです。地方で課題によりそってサービス開発をする、成果を東京もふくめて全国で展開する。そういう環境から、新たなITの活用シーンが見つけられると思っています。

羽角 僕も同じようなことを考えますね。ウェブってレバレッジをきかせる業界じゃないですか。これまでもGoogleやフェイスブックがいろんなサービスを作ってきてくれて、今やクラウドもコモディティ化した。結果、レバレッジのきかない仕事も気軽に作れる時代になったんです。僕は島根で日本酒の酒蔵から蔵びとを招いた飲み歩きイベントを企画して、イベント用Webアプリ開発のために地元学生を巻き込んだハッカソンなどを開催しています。背景には、一部に例外の蔵はあるものの、多くの酒蔵には消費者と直接にコミュニケーションできる場が少ないという課題がありました。イベントで街に人が集まることはメリットの一つですが、簡単なアプリを作って、実際にイベントに参加した人がどんなお酒を飲んだのかをデータで収集することもできる。ITで地方のちょっとした困りごとを解消できるチャンスって意外とたくさんあるんです。

■地方を“味見”してほしい

--最後に、今地方移住を検討しているエンジニアにアドバイスをお願いできますか?

辰濱 単純に人口の多さだけで比べれば、東京ではなく地方で暮らすことを選択する人はマイノリティかもしれません。でも、そもそものプレイヤーの母数少ない地方では自分に課せられる役割が大きくなる。それって僕は仕事をして生きる上で、すごく大きなモチベーションになると思っているんです。それに、冒頭でお話ししたように仕事をする上でのストレスも少ない。ただ、それだけ自分で自分の生活をコントロールしないといけないということも忘れちゃいけないと思います。そもそも人がいないんで「みんなが残業してるから、自分もがんばろう」ということにもならない。生活も仕事も、自分で管理して、自分でやりくりする必要があります。

羽角 僕は「デキる奴こそ地方に行く!」みたいな流れが生まれてくるといいなと思っています。昨今、「日本人の働き方」って大きなテーマになっていますが、そもそも東京での“デスマーチ”のような暮らしが世の中のスタンダードになるのは異常なこと。そんな環境でしか成り立たないビジネスは、崩壊していると言っていいと思います。だからこそ、テクニカルリーダーが地方に積極的に進出することで、新しいエンジニアの働き方を提示できればいいのではないでしょうか。

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大屋 僕は、まず移住を検討している人には地方での生活を“味見”してほしいですね。移住っていうとピンとこない人は多いかもしれませんが、実際に気になる土地に行ってみると、きっと感じることは人それぞれだと思います。20代の若者が地方に抱く印象、妻子持ちのエンジニアが地方に抱く印象、それぞれ違っていいんです。人生においていろんな選択肢がある中で、東京で働き続けるのもいいけれど、他にも選択肢はたくさんある。ITでできることがどんどん広がりつつある今だからこそ、地方で働くというハードルは下がっていると思いますし、可能性も大きくなっていると思いますよ。

 
「ITは働く場所を選ばない」とよく言われます。だからこそ、一人ひとりが自分の働きやすい環境を自らで選択できるはず。羽角さん、辰濱さん、大屋さんは、エンジニアだから持てる数ある選択肢から、自分がベストだと思える今の環境に辿り着いたと言えるかもしれません。日本人の働き方が問われる今こそ、自分の軸足をどこに置くべきか考えてみたいものです。

 

【プロフィール】
羽角 均さん
モンスター・ラボ島根開発拠点のエンジニア。平成26年に松江市へIターン。日本酒の飲み歩きイベントを企画し、イベント用Webアプリ開発のために地元学生を巻き込んだハッカソンを開くなどの「IT×地域社会」活動をしている

辰濱 健一さん
Sansan株式会社 「Sansan神山ラボ」に常駐するAndroid アプリエンジニア。徳島県神山町にある古民家を改装したサテライトオフィスで名刺アプリ「Eight」 Android版の開発をリモートワークで行う。プライベートではオフィスにある畑で作物を作ったり、地域の方と一緒に楽器の演奏や阿波踊り楽しむ

大屋 誠さん
株式会社IDCフロンティア 技術開発部 R&D室長。おもに新サービスの技術開発や企画に従事、現在はIoTや行動認識のプラットフォームの開発に力をいれる。平成27年より出身地の福岡に移住。東京時代と同様、R&D室長として、福岡と東京のメンバーのマネジメントを行いつつ、リモート環境でのコミュニケーションやマネジメントについての改善をすすめる。 プライベートでは養鶏や農業などに従事、福岡生活を満喫する

 

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