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26歳で会社役員、29歳でマザーズ上場。ガムシャラに働いた先に、福岡で見つけた力まない働き方

DeNAに入社後、26歳の若さで役員になり、29歳でマザーズ上場という華やかなキャリアを歩んできた株式会社YOUTURN代表・中村義之さん。ビジネス環境が熾烈な東京でしのぎを削り、バリバリと仕事をこなしていました。

しかし、ハードワークを続けるうちに、今まで経験したことのない症状に見舞われます。働きたいのに「思うように働けない」。役員を退任し、療養生活に入らざるを得なくなったのです。

長く苦しい療養期間を経て、再生を果たしたのは、地元・福岡。Uターン起業と、新たに始めた農業がきっかけでした。体力・気力ともに舞い戻った今だから語れた、壊れない働き方とは? #FUKUOKA編集部は、新事業を立ち上げながら、農作業にも汗を流す中村さんの元を訪れ、お話を聞きました。

 

——東京でバリバリ働かれていた中村さんは、もともと福岡市のご出身ですね。まずは、福岡に戻られた現在の仕事内容から、教えて下さい。

中村 福岡市でYOUTURNという会社を立ち上げ、東京でスキルを積み福岡に移住したい“U・Iターン人材“と、そういう人材を採用したい福岡の会社とをマッチングするサービスを提供しています。福岡はベンチャー企業やスタートアップの誘致に積極的に取り組んでいますが、人材不足という課題に直面しています。

成長を加速させるために、場数を踏んで鍛えられた実績ある人が欲しい、というニーズが高いのですが、地元で条件に適した候補者がなかなか見つからないのが実情です。東京は、ネットバブルの時代からベンチャーシーンが盛り上がっていたこともあり、長い人で20年近く業界でのキャリアを積んでいます。

そのため、わざわざ東京に出向いて採用活動をする社長も少なくありません。一方で、東京では地方への移住ニーズが高まっており、中でも福岡は特にプレゼンスが上がっています。その際、ボトルネックになるのが仕事。そこで、採用に困っている企業と、能力あるU・Iターン人材を繋げることで両者の課題解決のお手伝いがしたい、という想いでYOUTURNを立ち上げました。

——中村さんご自身が、東京から福岡にUターンをしてきた理由を聞かせて下さい。

中村 東京で長年のハードワークがたたり、精神疾患を発症してしまいました。福岡への移住は、その療養過程で働き方や人生を見直した結果なんです。

少し詳細に遡ると、まず新卒でDeNAに入社しました。その頃は仕事が心底楽しくて、朝から晩まで四六時中やるほどの高揚感の中で、とにかくガムシャラに働いて。DeNAより分社化した株式会社みんなのウエディングに取締役として参画し、26歳で役員、29歳の頃に会社がマザーズへの上場を果たしました。その過程では、自分の健康なんてかえりみずに、無理な働き方を続けていたんです。

ベンチャーやスタートアップの世界では、一つの大きなマイルストーンとしてIPO(株式上場)がありますが、ここがゴールじゃないんですよね。上場後は、瞬間的には大きな達成感がありますが、その後により一層高い目標が課せられ、事業に対する責任やプレッシャーがそれ以前の比ではなくなります。それで、疲労が蓄積された身体でさらにハードワークを続けるうちに、これまで経験したことがない症状が次々とあらわれたんです。

——恐ろしいことです。どんな症状だったんですか?

中村 吐き気を伴う頭痛や激しい動悸、不安感、緊張。虚無感や感情の起伏が激しくなって、業務中にわけもなく泣き出してしまったり、情緒不安定になったり。心療内科を受診したところ、「双極性障害Ⅱ型」と診断されました。「まさか自分に限って精神疾患なんて…」と信じられませんでしたが、とても仕事ができる状況でなかったのは事実。上場から半年後で役員を退任し、1年半の長い療養生活に入りました。この時の症状は、もう二度と思い出したくないくらい辛いものでしたね。

一度は復職するも、恐怖感が拭い去れずにまた再発してしまい、これはもう根本的に環境を変えないとダメだと思いました。

自分をすり減らして働いた先に、幸福はなかった

——そこからどんな経緯で再びチャレンジできるようになったのでしょう?

中村 療養生活の間は旅行をしたり、スローライフを楽しんだりしてリフレッシュしていたら、ある時ふと、仕事で楽しかったシーンが頭をよぎったんです。その途端「またあの感覚を味わいたい!」という衝動に駆られ、だんだんとまた働きたくなっていきました。こんなに辛く苦しい思いをしているのに、それでもまだ働きたいって思うんだ…と感動しちゃいましたね(笑) でも、同じことを繰り返すわけにはいかない。次に何をやるか、そもそもどう働きたいか、ひいては自分の人生がどう在りたいか、そこで初めて真剣に考えたんです。

——東京で働いていた頃は、そんなことを考える余裕もなかった、と。

中村 ええ。東京にいた当時は、もう本当にカオスで。ラッシュで波に飲み込まれているような日々の中、“今”を犠牲にして、ただただ結果だけを追い求めていました。病気になって気づいたことですが、自分が抜けても、意外と会社は回っていくんですよね。

そうであれば、自分をすり減らした先にしかない未来ではなく、「自分がどう在りたいか」自体をゴールと考えた方が、人生は絶対ハッピーなんじゃないか。幸福を感じながら仕事をして、結果として事業がスケールしたら、これ以上のことはない。働き方の価値観が変わりましたね。

そう考えたときに、もはや選択肢は東京じゃなかった。ITやベンチャーだけじゃなく、農業など生きることに直結したこともしたいという思いもあって、福岡に戻ることに決めたんです。

YOUTURNオフィスの外観。朝倉市・秋月の一軒家を借りている。
(YOUTURNのオフィスは、福岡市から車で1時間ほどの距離にある朝倉市・秋月に借りた一軒家。スタッフは住み込みで働き、車で20分の距離にある農地も管理している)

——農業はどんな経緯で始められたんですか?

中村 知人から「農作業は精神疾患に良いらしい」という話を聞いて興味を持ちました。同じように精神疾患を患ったことのある経営者の方にも農業の効能について教わり、せっかく移住することだし、やってみようと思ったんです。畑を借りて土作りからスタートし、現在は玉ねぎや小松菜、ほうれん草などを作っています。自分のこれまでのキャリアから考えると、農業を始めるなんて夢にも思いませんでしたよ(笑) でも実際に始めてみると、本当にいいですよ。人間らしいというか、土をいじっていると忘れていた感覚が蘇ったようで、活力が湧いてきます。今では、実体験を生かして精神疾患患者向けの療養プログラムも試験的に始めています。

——それはどんなものなのでしょうか?

中村 精神疾患を患ってしまった起業家やベンチャー人材を集めて、一定期間農村に滞在してもらうというものです。廉価で借りた空き家を「療養シェアハウス」として用意し、複数メンバーで共同生活を行います。

家族揃って引っ越してきてもらっても構わない。日中は近くの田畑で農作業に従事します。日光を浴びて汗をかいたら、夜もぐっすり眠れるんですよ。一定期間が経過して元気になってきたら、復職のためのリワークプログラムに参加していただく。理念に共感いただける企業から受託した仕事や、極力負荷の少ないPC作業からスタートする。そして自信をもって復職できるまで回復したら、復職なり社会復帰なりのサポートを施す。こんな構想を実現したいと思っています。

苦しんでいる人のセーフティネットづくり

——中村さんらしい活動ですね。今後の展望についても聞かせてください。

中村 YOUTURNの人材マッチング事業を柱にしつつ、地方にある低コストなアセットを活用して実現したいことが、あと2つあります。

1つは、先ほどの精神疾患療養プログラムを形にすること。もう1つは、起業にチャレンジできる、セーフティネットを伴ったインフラ作りです。

東京と比べると、福岡は住環境がよく、生活コストも低い。空き家や畑が廉価で借りられるので、自給自足の農的生活をすれば、限りなく創業メンバーの人件費を下げられる。起業には最高の環境なんです。また、精神疾患を持つ人にとっても、お金のことを気にせずにのんびり療養できる居場所になります。元気が戻って来たら、ここにいる起業家たちとリハビリがてら、仕事をすればいい。経済的にも環境的にも低リスクでチャレンジしやすい環境を用意して、起業のチャンスを広げたい。障がいがあろうが難病を患っていようが、それぞれのチャレンジが軌道に乗るまでここにいる皆で支える。

そして将来的にビジネスが大きくなったらYOUTURNの人材紹介にもつなげていく。そういうペイフォワードな環境を福岡で作り、全国に広げていきたいですね。

中村さんが借りた農地のすぐそばにある焼ノ峠古墳(やきのとうげこふん)
(借りた農地のすぐそばにある焼ノ峠古墳に行くと、平野部一帯が見渡せる。ここにはいつも穏やかな風が吹いていて、心がスーッと落ち着くという)

——最後に、挫折を乗り越えた中村さんが、今苦しんでいる方に声をかけるとしたら、何を伝えたいですか?

中村 今、苦しくて辛くてどうしようもないという人がいれば、ここ福岡に来てほしい。起業に必要な場所、物理的なオフィスや環境、自分たちの食事、事業をともに動かしていく人材、それらをすべて用意するから「一緒にやろうよ」と呼びかけたいですね。農業も手伝ってくれることが条件ですが(笑)。

でも、真のセーフティネットとはそういうことだと思うんです。誰も無理をせずに、持続可能で幸せな働き方が実現できる場所。その結果、成果も伴い事業が成長していくという幸福の循環が生まれる場所。ここを、そんなシンボリックな地方創生モデルにしていきたいと思っています。

中村義之さん

【プロフィール】
中村義之(なかむら・よしゆき)さん
昭和59(1984)年福岡県福岡市生まれ。高校まで福岡で過ごし、筑波大学に進学。大学在学時代にEC系ベンチャー企業で長期インターンシップに従事。平成20(2008)年、新卒でDeNAに入社。2年半後の平成22(2010)年10月、DeNAから分社化した株式会社みんなのウェディングに取締役として参画。後に事業本部長を務める。平成26(2014)年3月、東証マザーズに上場を果たすも、同年10月に体調不良により退任。平成28(2016)年5月、1年半の療養を経て株式会社YOUTURNを設立。代表取締役に就任。地方から未来の日本をつくる事業や人材を応援する活動を開始。

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