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「今、福岡でやらなければ日本の音楽は終わる」 元ジュディマリTAKUYAさんが語る“福岡スタジオ構想”

伝説のバンド「JUDY AND MARY」のギタリストTAKUYAさん。最近では自身も参加する「商店街バンド」のプロデュースをはじめ、中国や台湾のアーティストに楽曲提供するなど、アジアでも精力的に活動を行っています。

そんなTAKUYAさんが、今年4月24日に東京・お台場で開催された世界的なスタートアップイベント「SLUSH ASIA」にて、“福岡にアジア音楽のハブとなるスタジオを建設する”という構想を発表しました。TAKUYAさん自身、「人生をかけている」とまで語るその構想。今回、構想発表に至った経緯から計画の中身、また福岡市に対するイメージなどについて語っていただきました。

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――構想自体はどれくらい前からお考えになっていたのですか?

TAKUYA なかなか線引きは難しいのですが、最初に考え始めたのは12年ほど前でしょうか。当時から、ネットの発達とともに(CDの売り上げを基にした)従来の音楽業界のビジネスモデルが消えていくことはわかりきったことだったので、僕は自分の音楽を続けるために専用の小さなスタジオを東京に作ったんです。

ただ、それだと僕は助かるけど、周りはそうじゃないですよね。実際、ここ10年くらいで知り合いの音楽業界の人も結構路頭に迷い始めていました。みんなヤバいのは分かっているけど“答え”に辿りつけない状況が長く続いているというか。

そもそも、東京で音楽を制作するって「コスト」が高すぎるんです。ミュージシャンにとってもレコーディングエンジニアにとっても高い。全然、今の日本の音楽業界のバジェットにマッチしないですからね。

――レコーディングスタジオの運営費をはじめ、ミュージシャンやその他スタッフの生活費まで含めた必要経費を考えると、東京で音楽制作を続けるのは「高すぎる」と。

TAKUYA ええ。一方で、もうこれ以上コストを削ったら、誰も儲からないし誰も楽しくない状況が近づきつつありました。すっごい矛盾です。徐々に、多くの音楽関係者の中で「もう東京じゃないよね」という思いが生まれ始めました。そんな中、横須賀など東京近郊にホームスタジオを構え出す人も出てきました。でも、それは単なる「避難」であって、問題の解決にはなっていない。避難ではなく、もう一度、環境を再構築できる場所が必要なんです。そこで、日本の音楽業界が再び元気を取り戻すため……とか言うつもりはないですけど、とにかく面白いことをしようと考え抜いた末、出た答えが「福岡で音楽産業を再構築して、アジア音楽シーンのハブになる」だったんです。

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――脱東京だけならいろいろ選択肢はあったと思います。どうして福岡を選ばれたのでしょうか?

TAKUYA すべての条件が揃っていたからですね。最初は軽井沢(長野県)あたりも考えたのですが、たまのリゾート合宿はありでも、産業という規模までやるには都市部じゃないと難しい。名古屋と大阪はもはや東京と同じなので候補外。札幌や仙台という候補もありましたが、東日本は西日本に比べて周波数が低い。録音機材やアンプを動かす上で、そこは重要なポイントになるんです。その前に、構想の肝であるアジアの都市から離れてしまっては意味がありませんしね。

そして、最後に悩んだのが京都と福岡だったんです。京都といえば、外国人の有名タレントやミュージシャンが最も滞在したい街。また僕自身、京都出身ですから、住み慣れた街でもある。ただ、京都は観光を生業としているので、観光シーズンに異常に宿代が上がること、保守派なムードであることから、新しいものを再構築し、産業とするには難しい。なにより空港がないのが痛かった。

……と考えていくと、福岡しか残らなかったんです。ある意味、消去法ですけど、最後に残った福岡に僕の求めるものすべてが詰まっていました。空港は都市部から地下鉄で10分かからないので移動に困らない。周波数は高くて、メシは安いし美味い。土地もまだ残っていますしね。生活をしやすいのは大きいですよ。そして新しいものが大好きな土地柄。一番の決め手は「アジアに近い」ことでした。

――福岡-上海間のフライト所要時間は、福岡-東京間とほぼ同じ。福岡を拠点にすれば東京以上に、アジアの各都市とも行き来がしやすくなるのかもしれませんね。

TAKUYA そうなんですよ。普通に近いから、パッと荷物を持って飛行機に乗って、台北や北京で仕事をやっていけると思うんですよね。感覚的なことを言うと、ギター1本持って飛行機に飛び乗ってアジアへ……というのが、福岡空港ならイメージできる。成田空港どころか羽田空港でもそれはイメージしづらいですけど。

ここ数年、アジアで仕事をする機会も増えてきましたが、アジアの音楽業界は明らかに景気が良くて、あちらのスタッフやミュージシャンからは「やりましょう!」という気概が漂っている。もちろん金もある。北京も台北も、ジャカルタもアツいですよ。そうそう、先日も北京で「ミュージックキャンプ」に参加してきました。世界中から作曲家を20人ほど集めて1日一曲作るというミュージシャン版ハッカソンみたいなイベントなんですが、そんなIT業界でやっているような新しい動きがアジアの音楽シーンでは起きているんです。

一方、日本はどうでしょうか。CDは握手券や投票券などに付随するグッズ……そんなアイドル文化が隆盛です。もちろん、僕もアイドルに音楽は書いているし、その文化自体は大賛成です。しかし、「それだけ」はヤバい。もっと本質的というか、ミュージシャンが鍛錬を重ねて、そしてエンジニアが厳しい経験を積んで作る本物の音楽文化も残さなければいけない。でも、このまま東京を中心としたシステムでは、そうした音楽は消滅していくだけでしょう。僕は、そこに相当の危機感を抱いています。だからこそ「場所」を作らないといけない。

――このままなにもしないと日本はアジアの音楽シーンからも取り残されてしまうと?

TAKUYA ええ。もちろん現状は、日本の音楽産業はアジアの中では抜けています。ただ、このままだと本当にまずい。日本は長年に渡り音楽産業が発展し、アジアでは音楽文化が成熟している数少ない国です。ゆえに音楽制作に関する知識の蓄積があります。アジアは、モノはあるけど人がいない。例えばこのあいだも北京のスタジオに行ってきたんですけど、予算をかけられるから最新の機材をはじめ、ものすごい設備が整っているんですよ。でも、それを使いこなせる人材が決定的に不足している。明らかな人材難です。

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なので、僕もそういった現場に行けば、すごく重宝がられるわけです。有難いことに、アジアの音楽関係者は、日本をクールだとは思っているから、一度はレベルの高い日本で経験を積んでおきたいという思いがある。ですから今、アジアの各都市からアクセスのいい福岡に拠点を構えれば、自然と人は集まってくると思うんですよね。東京からは仕事を求めて日本人の熟練のエンジニアやミュージシャンが、そしてアジアの各都市からは日本の技術を学びたいギラギラした若い才能が……アジアの中の「本当に音楽をやりたい連中」が、福岡に修行に来るというイメージを持っています。

――さきほど「福岡は新しいものが大好きな土地柄」という言葉がありましたが、福岡は新しいものを受け入れてくれるイメージはありますか?

TAKUYA それはすごくあります。福岡は世界的なブランドが旗艦店を出店する街で、若者もおしゃれだし、新しい文化を受け入れる素地がある。これを音楽業界がもっと利用しない手はないと思います。それに行政の理解もある。「福岡をクリエイティブな都市にしたい」という髙島市長の目指す方向性を知ったとき、正直、これは(自分に)風が吹いているなと思いました(笑)。

もちろん音楽業界が全部福岡に移るべきだとは考えていません。制作の活動拠点は福岡で、ビジネスは東京や北京や台北でもいい。とにかく人が集まりやすい場所に制作拠点を置くべきだと思うんです。

また、福岡は確実にツアーで通る街でもあるんですよね。だからツアーで回っているミュージシャンに、福岡での空き日に仕事を発注することだってできる。それに、飛行機で東京まで1時間半だから、2拠点生活も可能ですよね。飛行機運賃も安いチケットなら往復3万円くらいでしょ。例えば1日5万円で仕事を受けているミュージシャンに「交通費を出すから福岡で仕事しない?」と言えば、だいたい来ると思います。みんな、福岡にはやたらと来たがるので(笑)。

――どれくらいでこの構想を実行に移そうと?

TAKUYA 最近までは、3年後に着工して5年後に本営業……くらいに考えていました。でも、それだと遅すぎる。そんなチンタラやっている場合じゃない。こういう構想や技術って、5年もすればあっという間に中国や台湾に流出しているだろうし、僕自身、福岡の計画が遅々として進まなければ、とっとと北京か台北に行っちゃうと思います。現に北京には十分なスタジオが建っているわけですから。

でも、そういった危機感は、まだ多くの音楽関係者に共有されていない。この国からいい音楽を生み続けるために今やらなければいけないことがある。その意味では福岡が日本の音楽産業の最後の砦になる。大げさな話ではなく、僕の人生をかけた構想。これをやるために生まれてきたんじゃないか、という気持ちすらしています。

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【プロフィール】
TAKUYA(タクヤ)
京都府出身。1993年9月「JUDY AND MARY」のギタリストとしてデビューし、「クラシック」「くじら12号」などのヒット曲の作曲・作詞を手がける。現在は、芸人とコラボしたエンターテインメントユニット「商店街バンド」をはじめ、私立恵比寿中学など幅広いミュージシャンのプロデュースを手がける傍ら、北京・台北のアーティストに楽曲提供を行うなど、アジアに目を向けた活動にも精力的に取り組んでいる。

【関連リンク】
Twitter
https://twitter.com/takuya54it
TAKUYAオフィシャルブログ
http://ameblo.jp/takuyaweb/



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